お産の俗信
姙婦の食禁
日野 壽一
1
1東大
pp.43-45
発行日 1953年3月1日
Published Date 1953/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200307
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昭和22年度の文部省の国民生活慣習調査によれば,民間医療関係の俗信,まじない,縁喜の中,妊娠分娩に関する迷信が31%の多きに達している。これは妊娠を昔は神祕とも穢れとも見做していたことに深い関係があり,同時にお産に対する不安の念がいかに大きいかを示すものである。
これらの迷信の大部分は近世にできたものでもなく,また無学な民衆がでたらめに言い出したものでもない。これは奈良朝以前に支那から伝えられた漢方医学の内容が民間に流布したものなのである。当時の漢方医学は今日から見れば間違いだらけのものであるが,千年二千年の昔にはそれが最高の科学であつた。これらの迷信は,たとえ理論的に誤りであり事実に反するものであつても,元はともかく一応科学の裏付けをもつていたものであるだけに,その伝統は抜き難い根強さをもつている。しかもその大部分は皮想な連想の濫用による思い違いてある。連想や比喩は大衆に早分りがする。従つてこの種の俗信は伝播普及力が大きい。
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