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趣味を語る
大谷 しよう
pp.22
発行日 1953年3月1日
Published Date 1953/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200299
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人には必ずなにか知ら趣味のあるものである。若し私がずつと年を取つて身体に怠屈を覚えるやうな時が来たら,もう一度やつて見たいと思う事は茶の湯である。私は若い頃には登山にあこがれていた,又芝居にも現をぬかした事もあつた。けれど11才の幼ない時母から進められて四ツ身の着物に膝頭をのぞかせては,余りにお茶の手前にふさわしくないと,袖をつけて,19才の学校を出る迄一生懸命に習つた茶の湯,それがいつの程にかほんとうに好きな趣味となつた。あのお手前の時の静粛な中に釜の湯のたぎる音を聞く其零囲気のお茶の味は今以つて忘れる事が出来ないと同時に其茶の湯から得た体驗は,私の今日迄の生活の上に,どれほど必要なものであつたか…………。
いつか原田静江さんから「大谷さんはお茶の心得なんかある人には見えない」と云われて,ドキンとした程今の私からお茶の湯のたしなみはぬけてしまつている。けれど,私はやつばり心から茶の湯を礼讃している。
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