今月の言葉
予防産科学への前進
瀨木 三雄
pp.6-7
発行日 1952年9月1日
Published Date 1952/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200172
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丁度10年前の昭和17年7月,妊産婦手帳規程が公布され,すべての妊婦に妊産婦手帳を交付する事となつた。10年の年月を経過した今日当時との手帳制度の考案設計に当つたものとして私の感慨は一入である。との手帳はその後,私が厚生省母子衛生課長の時に,乳幼兒の健康のための手帳と一緒にしようと思い,名前も母子手帳と変えた。幸い今日まで継続し,母子保健のための諸方策の前進するルートとしての役割を果している。
我国の大部分の産科医師の方は今尚臨床医学を唯一貴重のものと考え,予防医学は,それが一見通俗的印象を与えるが故に学問上の価値低きものとして取扱つている。産婦人科の学会でも明にこの傾向が今尚支配しつづけている。私は戰前歐米を訪ね,医学の主流がこの方面に流れつつあるを痛感し,これより更に一歩を出んと欲し,少くとも当時に於ては我国独持の方法である手帳制度を考案したのであつた。多数の産科の医師の方は,この手帳制度に賛意を惜しまれず,本年廃止の運命に見舞われ樣とした時にも全国の大学産婦人科教授の方は一人残らず反対署名を送付された。これらの方々に厚く謝意を表したいのであるが,しかし産科医師の方々の考え方に今一歩の前進を望みたいと思う。予防産科学が前進すべき軌道として母子手帳制があつても,軌道だけで終つては役に立たない。
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