私の経験
開業30年から
俵 あい
pp.30-34
発行日 1952年3月1日
Published Date 1952/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200062
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その1早期剥離
開業して30年になりますが,その間の思い出の記でも書くようにとのことですが,30年と一口に申しましても長い歳月ですから,色色のことが思い出されますが,その中で私が一番驚いたこと,恐しかつたこと,困つたことの3つを書いてみましよう。
私が開業して間もない大正13年12月(關東震災の翌年)産婦さんのお母さんが私をとても信用していて下さつたので四谷まで來てくれとたのまれ11月の始め8ヵ月のとき初めて診察をいたしました。産婦さんは38歳6回目のお産で體格の大きなしつかりした方でした(1月10日分娩豫定)12月4日に2回目の診察その頃のことで血壓は計りませんでしたが尿は蛋白(-)浮腫(-)胎兒發育良,異常なし。12月22日午後6時,電話で少し張つてきて何だかお産になりそうだから來てくれるようにとのこと,すぐに仕度して出かけ先方へついたのは7時でした。今思うとお恥しい次第ですが,かたの如く診察をいたしますと心音が聞えません。さて--おかしなこともあるものと亂れがちな心を懸命にしすめ,赤ちやんは動きますかと尋ねると,今先つきまでは動きましたが今は何だか一寸わからないと申されます(妊婦さんは私の伺つたときはまだ起きて居られました)
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