書評
山口 美和 著「—PT・OT・STのための—これで安心 コミュニケーション実践ガイド 第3版」
飯塚 照史
1
1奈良学園大学
pp.640
発行日 2024年6月10日
Published Date 2024/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552203141
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「コミュニケーションは経験によって洗練される」との認識は誤りではないだろう.確かに特別な指導を受けずとも長けた人はいる.しかしだからといって養成教育に携わる者として,実習で指摘を受けた学生に“経験を積んだらできるよ”というのでは状況は変わらない.さまざまな情報に簡単にアクセスできるようになった現代において,正しい情報を正しく伝えることは重要である.ましてや患者中心的医療(医療情報を共有し患者の“個”を尊重する医療)となった医療現場において,正しい情報を共有するためのコミュニケーションの重要性は非常に高いと言っても過言ではない.
コミュニケーションとは“相手を納得させる”といった会話術に限定されるものではなく,情報を適切に対人あるいは対社会に伝えるプロセスそのものを指す.例えば,「花見」と言えば桜の花の下で宴会をするイメージを持つであろう.しかし,日本を母国としない者は,単に花をじっと見ている姿を想像するかもしれない.つまり,会話は成立するが適切な情報は相手に伝わっておらず,これは前提としての共通理解が欠落していることが一因となっている.同様なことは医療現場でも起こっているものと想像される.脳や脊髄といった中枢神経の損傷に由来する麻痺は一定程度の改善を示すこともあるが,多くの場合は後遺症として残存する.これを背景として持ち合わせる医療者の「麻痺はよくなりますよ」という言葉を,患者は「完治する」ととらえるかもしれない.
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