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「あなたが医療職種をめざすうえで最も大切なものは何ですか?」という問いは,受験という場面で必ず聞かれる質問の一つではないかと思われます.私自身が教員となって30年近くのなかで,受験に際して必ず聞いてきた質問でもあります.多くの受験生は「コミュニケーションである」ということを切々と話してくれます.医療者としてコミュニケーションが重要であることは,それをめざす方々は十分に理解していることがうかがえます.私も聞く側としていつも「なるほど」と,何気なく納得してそれを聞いています.しかし,それほど重要な“コミュニケーション”というものを人はどのように確立していくのか,と質問を重ねると,そこから先はさまざまな意見に分かれたり,答えに窮したりと人それぞれであるとともに,確信の得られる答えは少ないように思えます.そういう私自身も,自信をもって答えられる状況にはありません.
医療職種は,専門的な技術を対象者に的確に提供することが必要です.技術は自らの不断の努力や成功,失敗を繰り返して向上していくものであり,コミュニケーションもきっとそのような経験が重要なものであることは論をまたないでしょう.対象者を前にしたとき,医療職種としての技術は十分とは言えないまでも,少なくとも卒前の実習その他で学習したものを持ち合わせています.一方でコミュニケーションはというと,それを体系的に学ぶ機会は少なく,何が正しくて何が間違いなのかということは,経験的なものに頼らざるを得ない状況にあります.対象者との関係のなかで,その医療者の人格そのものが試されるのがコミュニケーションであると思います.人が人に対して行うのが治療と考えると,コミュニケーションはまさに人格と人格が相対する際の重要なツールであり,人の温もりが伝わる場面と言えます.それはマニュアル化されたものではなく,真に人が求めるものであり,その核心は忘れてはならないものだと思います.さらにそのうえで,医療者として備えていなければならない重要なコミュニケーションの能力,そしてそれを医療技術とともに切磋琢磨し鍛えあげていく考え方やその道筋は,実践の上に必要な「規範」と呼べるものです.
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