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はじめに
高次脳機能障害と併発するコミュニケーション障害は,認知コミュニケーション障害(cognitive communication disorder:CCD)と呼ばれる.CCDは注意,記憶,体系化,推論,遂行機能,自己抑制あるいは情報処理の低下などの認知的問題や思考の問題が原因となり起こる障害1)で,失語症ではないが,聞く,話す,読む,書く,および社会的なやり取りの問題が生じる1).CCDの原因は交通事故,転倒,スポーツによる脳しんとう,頭部への殴打,脳血管障害,神経疾患,心停止などである1).中等度から重度の後天性脳損傷を負った患者の75%に何らかのCCDの症状が見られることが報告されている2)が,軽度あるいは重度でない脳損傷や脳しんとうなどでも起こる障害である1).CCDは適時の評価,介入がなされていない場合,職場や学校,地域社会で問題が生じるまで明らかにならないことがあり3),二次的な障害を防ぐためにも言語聴覚士(ST)による適切で,包括的な評価が求められる.かつて右半球損傷による認知機能の障害とコミュニケーション障害に関する啓発が不足していた時期に,医療者や当事者にさまざまな弊害が生じていたとMyers4)は指摘した.啓発の遅れの原因として,脳血管障害により右半球に損傷を負った後,「話し言葉にも書き言葉にも変わったことがないが,コミュニケーション障害を呈する」という症状を表す名称がなかったことを挙げた4).適切な名称がないことで,医療者はその障害について簡潔に,また適切に患者や家族に説明することが難しく,結果として,当事者やその家族がその症状を理解し,生活の中でうまく付き合っていくことを困難にしていた4).名称がないことは専門家の症状についての理解にも影響を与え,研究が進展しないという結果をもたらした4).この状況は,現在のわが国のCCDの状況だといえる.高次脳機能障害に対応する医療職,福祉職のスタッフだけでなく,当事者やその家族はCCDの症状を説明されれば,経験していることに気づくが,CCDという用語が浸透していないため,高次脳機能障害の評価,介入はなされるが,STによる適時で,適切なCCDの評価,介入につながらない原因のひとつなのではないかと筆者は考える.
本稿では医療職,CCDの当事者,家族,および支援者間でCCDの評価や介入に関する情報を共有する目的で,後天性脳損傷によるCCDの評価や介入に役立つと思われる検査や課題,介入例を先行研究や筆者の臨床経験をもとに紹介したい.
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