自動車運転再開に関する指針

Clinical guidance for management of driving

はじめに

　近年，高齢者，認知症者の運転による交通事故，さらに，脳卒中や脳外傷などの後天性脳損傷に起因する症候性てんかんによる自動車事故に関する多くの報道から，脳損傷者の運転能力の有無，運転免許所持の是非を問う社会的関心がきわめて高くなってきた．しかし，一方で，自動車運転は，社会参加，社会復帰のためには重要な手段となり得ることから，運転能力評価にかかわる多職種，すなわち，医療関係者，工学系，認知神経科学系などの教育研究者，自動車教習所関係者，行政職，企業関係者などの専門職間で，安全運転に必要とされる一定の基準を共有することが求められてきた．そこで，日本リハビリテーション医学会の診療ガイドライン委員会では，「脳卒中・脳外傷者の自動車運転に関する指導指針」^1）（以下，本書）の策定に取り組み，パブリックコメントの募集を経て，2021年5月に発刊した．

　本稿では，本指針を策定する過程において特に注力した点を述べ，次いで，指針そのものの概要，そして指針に関する海外の現状に触れる．