巻頭言
認知症のある人の靴を履くこと
内田 達二
1
1東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科
pp.1131
発行日 2021年12月10日
Published Date 2021/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202373
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先日,ウェブニュースにとある書籍1)が紹介されていて,その目次「誰かの靴を履いてみること」が目にとまった.15年前に英国講師から受けた認知症のパーソン・センタード・ケア(以下,PCC)の研修のことを思い出したからである.PCCは,1980年代に英国の老年心理学者故Kitwoodによって提唱された認知症ケアの理念であり,「認知症のある人を一人の人として尊重し,共生する社会/環境」を目指す.PCCを政策枠組みに取り入れている国もある.日本への導入事業は,水野裕医師が中心となって2002年より開始され,私も研修会に参加することができた.研修の中で英国講師は,PCCの基本を,「その人のことは完全には理解できないが,一人ひとりをユニークな存在として尊重し,理解しようとする姿勢」として,日々,試行錯誤でかかわりながらその人をわかろうと「その人の靴を履く」ことが重要だと話された.その当時私は,英語のことわざかな程度に思っていた.
件の書籍を読むと,主人公の中学生は,今の時代empathyは大切で,それは「自分で誰かの靴を履いてみること」だと学校で教えてもらったという.Empathyは「その人の立場に立って,その人の状況を想像することによって他人の感情や経験を共有する能力」のことを示すらしい.その一方,「かわいそうだという同情や支持」を表す感情はsympathyという.英国の中学生が学んだという「他人の靴を履く」ことについて,研修会を受けた当時の私は,十全には理解できていなかった.
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