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はじめに
日本は現在,高齢人口の急速な増加の中で,要介護者の増加や介護人材の不足,社会保障費の増大など医療・福祉の分野でさまざまな課題に直面している.活力に満ちた超高齢社会を実現するには,高齢者が自立した生活を継続し,要介護状態に陥らないための予防策が求められる.介護予防のためには身体的,認知的,社会的活動をバランスよく生活の中に取り入れ,活動的なライフスタイルを身につけることが望ましい1).特に要介護状態の主要な問題である認知症と活動との関連は強いことが知られ,活動を介した予防活動が行われている.
健常高齢者を対象として運動介入による認知機能に対する効果を検討したシステマティックレビューをみると,運動の実施によって認知機能の向上は可能であるとした見解が得られているが2),認知症予防の中心的な対象層である軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)を有する高齢者に対する運動の効果を検討したシステマティックレビューでは,言語流暢性検査においては,運動による有意な効果が確認されたが,その他の実行機能,認知処理速度,記憶については有意な効果が認められないとされた3).ただし,よくデザインされた個々のランダム化比較試験の結果では,運動による認知機能の向上効果が多数認められており,今後,大規模なランダム化比較試験によって,その効果を確認していく必要がある.われわれの研究グループでは,運動のみではなく,認知課題を同時に実施するコグニサイズを考案してMCI高齢者を対象としたランダム化比較試験を実施した.その結果,処理速度(digit symbol coding)および言語能力(word fluency test)の向上が認められた.また,健忘型MCI高齢者(n=50)に限定した分析では,全般的な認知機能(Mini Mental State Examination)の低下抑制,記憶力(Wechsler Memory Scale Ⅰ)の向上や,脳萎縮の進行抑制効果も認められた4).これらの結果は,認知症予防のための取り組みとして運動を実施する場合に複合的な要素を取り込む必要性を示唆するものと考えられた.
また,運動とともに,食事,認知トレーニング,血管リスクのモニタリングといった複合的な介入を実施して認知機能に対する効果を検証した論文が報告された.対象者は,認知機能が年齢標準より軽度低下した高齢者1,260名(60〜77歳)をランダムに介入群(631名)とコントロール群(629名)とに割り付け,介入群では定期的な食事指導,血管リスクのモニタリング,積極的な運動と認知トレーニングを実施した.運動は理学療法士がトレーニングジムにて個別指導を実施し,筋力トレーニングは週1〜3回,有酸素運動は週2〜5回実施している.認知トレーニングは10回のグループセッションと,パーソナルコンピュータープログラムを用いた72回の個別セッションを2回実施した.これらの予防対策を2年間実施した結果,神経心理学的検査バッテリーの総合点の変化に有意差が認められ,多面的介入の効果が示された5).
このような活動的なライフスタイルの獲得において情報通信技術(information and communication technology;ICT)の利活用が大きな役割を果たせるのではと期待が高まっている.例えば,通いの場や教室型の介護予防教室に参加しない高齢者や教室外の日常生活においてアプリケーションを利用した自己管理は介護予防に有効であると考えられる.特に新型コロナウイルス感染症の流行により直接交流を伴わない非対面下での介護予防の取り組みが必要である.
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