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はじめに
手動・電動を問わず,歩行機能に支障のある車椅子ユーザにとって,自動車は近・中距離圏における重要な移動手段である.過去の研究では,車椅子ユーザの生活の質(quality of life;QOL)に自動車の利用が大きな影響を与えることが示されている.例えば,米国で実施された201名の肢体不自由者へのインタビュー調査では,自動車を含む交通機関の利用が福祉機器や住宅・地域環境などと並ぶ促進因子として同定されている1).また,同じく米国の脊髄損傷者を対象とした後方視的調査では,自動車運転が,雇用の状況から健康状態に至るQOLに関連したさまざまな因子に,好ましい影響を与えることが示唆されている2).一方で,適切な私有・公共の交通手段の欠如が,地域生活への復帰を阻害する実状も報告されている3).
国内においては,バリアフリー法(高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律,2006年12月施行)によって,公共交通機関への車椅子のアクセス確保が事業者に義務付けられている.電車や航空機に加え,バスやタクシーなど自動車を用いた公共交通もこの法律の範疇に含まれる.前身の交通バリアフリー法(高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律,2000年11月施行)を含めると,施行後20年以上が経過しており,周辺施設を含めた整備が継続されている.しかし,後述するが,適用除外となる範囲が依然として存在するなど,解決すべき課題も多い.
本稿では,車椅子ユーザが自動車を利用するために必要となるさまざまな機器について,それぞれの機能と機構を概説する.自動車の利用には,① 自身が運転する,または,② 家族や支援者が運転し自身は搭乗する形での自家用車の利用,③ バスや,④ タクシーといった公共交通機関の利用,という形態が考えられる.いずれの場合も,手動・電動車椅子を道路から一定の高さに乗車面がある自動車に,a)積載し,走行で発生する慣性力(いわゆるG)を相殺するために,b)固定することが必要となる.また,車椅子ユーザ自身が運転するためには,c)上下肢の機能障害を補う装置も必要となる.①〜④ とa),b)の組み合わせでは用具選択時に考慮すべき因子は車椅子のサイズ・重量程度であるが,①-c)の運転補助装置を選択するためにはユーザの身体機能を精緻に評価する必要がある.この運転補助装置の適合については,紙幅の制約上本稿では取り扱わないため,あらかじめご了承いただきたい.
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