Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「夜明け前のうた 消された沖縄の障害者」—私宅監置という闇の世界を白日の下に晒す
二通 諭
1
1札幌学院大学
pp.715
発行日 2021年7月10日
Published Date 2021/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202274
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本欄で「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」(2020年11月号)を取り上げた際,沖縄県民にとって,「ヤマトンチュ(本土の人)は,加害者」と書いた.すなわち,沖縄県民は戦中に続き,米軍統治下の戦後も被害者だった.ところが,精神障害をはじめとする障害のある人々に対しては私宅監置という加害の歴史,闇の歴史を抱え込むことになった.その実相を,主に吉川武彦(故人)が保存していた岡庭武による1964年の調査研究(名前,場所,写真)を手がかりに白日の下に晒したのが,ドキュメンタリー「夜明け前のうた 消された沖縄の障害者」(監督/原義和).本作の真骨頂は,<いない人>とされた人々が,名前を持って生きていたという存在の証を刻む点にある.一方で,かの人々の名前や写真を世に出すゆえ,批判を覚悟せねばならない.監督の原にとって,肉を切らせて骨を断つ,身を賭した一作だ.
私宅監置制度は,1900年制定の精神病者監護法に規定され,1950年の精神衛生法によって廃止されたが,サンフランシスコ講和条約で日本から切り離された沖縄では維持された.私宅監置者数1942年・98名,1958年・203名という事実から,戦後の沖縄では,むしろ積極的に活用されたともいえる.有り体に言えば,地域に迷惑をかけたくない,家の恥を隠したいという精神風土と医療資源・健康保険制度未整備という沖縄社会の状況がこの事態を招いた.
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