シネマ解題 映画は楽しい考える糧[84]
「闇の子供たち」
浅井 篤
1
1東北大学大学院医学系研究科社会医学講座医療倫理学分野
pp.561
発行日 2014年6月15日
Published Date 2014/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414103252
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利害が対立する2つの立場の主張
臓器売買,人身売買,強制小児売春,エイズ,そして生体心臓移植.5,000万円を準備した日本人の両親が拡張型心筋症で末期状態の息子をタイに連れて行き,ある病院で身売りされた小児から心臓を得て移植をするという情報が入ります.そのことを知った新聞記者,人権センターボランティア,カメラマンらが真相究明と移植阻止,行方不明の子どもの救出のために奔走します.人権侵害と決して行ってはいけない行為のオンパレード.正視に耐えないような場面も少なくありません.エイズを発症し「仕事」ができなくなった少女は,黒いビニール袋に入れられ捨てられました.
これらの単純明快な悪を改めて取り上げ論じることもないでしょう.この作品は課題を論じるより,何が起きているかを知る,正確には目撃するための映画です.ひとつだけ本作品で語りたいことは,利害が対立する異なる立場からの主張を耳を閉ざさずに訊くことの難しさです.タイに息子を連れて行こうとしている両親は,そこで何が行われるか薄々勘づいているようですが,そこで思考停止,判断停止します.息子の命以外配慮するものはありません.タイの人権ボランティアの若い女性は,その両親に「タイの子どもが殺されるから移植をやめて,せめてアメリカで移植してくれ」と主張.これに対して母親は「うちの息子に死ねと言うの?」と反論.米国では待ち時間が長過ぎ,金額的にも困難でした.話し合いは平行線を辿って終わります.
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