余白のつぶやき・8
闇に在りしものは闇に
べっしょ ちえこ
pp.325
発行日 1980年3月1日
Published Date 1980/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661918916
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詩人のヴァレリイが、一九三八年、フランス外科学会の開会式で講演をしている。彼は、外科医が生命の秘密に直接手を触れ、それをあばき出すことのおそろしさについて次のように言った。
「外科医は、一有機体の状態を変形します。ということは生命に触れることです。外科医の手は、生命と生命の間に滑り入ります。……私は、諸君が犯す有機体の極度の驚き、仰天を想像します。諸君が、突如もっとも奥深い所にまで空気と光と力とメスを侵入させ、われわれにはそれ自体かくも未知のものでありながら、われわれを構成しているこの不可能の生ある物質に、外界の衝撃を及ぼしつつ、諸君はその鼓動する秘宝を明るみに出すのであります。何という打撃、何という遭遇でしょうか」
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