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あまたある高次脳機能障害の中でも「認知症」ほど,その理解と対応に難渋するものはないというのが評者の正直な印象です.これまでの評者のグループが行ってきた研究でも,対象の選択基準には重度な「認知症がないこと」とする場合がほとんどで,真正面からこの課題に向き合ってきたわけではありません.しかしながら,本書の編著者が述べているように高齢化社会の進むわが国では,「認知症に対する治療法の開発や社会の環境整備が喫緊の課題である」という認識は多くの関係者が共有していることと思います.
このような切実な危機感を背景として,今村徹先生,能登真一先生によって本書が上梓されたことは大きな喜びであり福音というべきものです.本書は,第1章「認知症の基礎知識」,第2章「リハビリテーション評価」,第3章「リハビリテーションアプローチ」,そして第4章「QOLが向上した症例紹介」から構成されています.例えば,第1章では「認知症とは」の項で,一般人が陥りやすい認識である「ぼけ」=認知症ではないことが明確に定義され,続く「認知症の診断」の項では,症状,病因,障害の診断について平易に解説されています.第2章では評価について詳説されており,「評価の枠組み」の項では,認知機能面の評価と行動面の評価に大きく分けられることが指摘され,評者のような初学者にとってもわかりやすいフレームが示されています.第3章では治療アプローチについてまとめられており,特に「非薬物療法とそのエビデンス」は,認知リハビリテーション,学習療法,運動療法,言語リハビリテーションについて具体的な手続きの紹介を交えて示されています.「運動療法(筋力トレーニング,有酸素運動)」の項では行動変容を基盤とした方法が紹介されていて,評者は理学療法士ということもあり大変興味深く読ませてもらいました.第4章の症例紹介では,アルツハイマー病,脳血管性認知症,レビー小体型認知症が例示されています.これ以外に,本書の随所にちりばめられた物盗られ妄想,ユマニチュードなどといった「column」も,わかりやすいイラストと相まって読者の理解を助けるものと思います.
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