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外傷性脳損傷(TBI)においては,びまん性脳損傷の存在も含めて脳の1か所に損傷が限局されることはほとんどなく,また前頭葉損傷の際には脳の他部位と連絡する前頭連合野の損傷も受けやすく,これらの結果として脳の複数か所に影響が及びます.そして,狭義の認知面の問題だけでなく,感情障害や行動障害も伴うこととなり,また社会性に問題が及ぶことも少なくありません.つまり,TBIの臨床経過は多くの要素が絡み複雑な状況を呈します.こうしたTBIを理解し,対応していくためには,幅の広い様々な要素を一つ一つ丁寧に取り上げ,それらを包括的に理解する取り組みが必要となります.
今回,翻訳発刊された「外傷性脳損傷ハンドブック」は,まさにこうしたニーズに応えるための1冊となっています.TBIの概要説明に始まり,評価,管理,そして社会的な話題についての内容で構成されており,それぞれが丁寧なレビューをもとにまとめられています.単に認知障害の側面のみからみるだけでは理解がしきれないTBI後の独特の臨床経過について,把握すべき項目が必要かつ十分な形で選択され,ハンドブックとしてコンパクトに掲載されています.臨床の視点が意識され,各項目の説明には評価と治療に関する情報が記載され,TBIをどう捉えてよいか戸惑っている臨床家にとっては現場ですぐに役立つ内容となっています.特に本書では,外傷後の認知障害と情動障害,行動障害に多くのページが当てられ,その内容が大変充実しています.TBIとその後に続く独特の臨床像は,わが国では「高次脳機能障害」という用語をもとに整理がされてきていますが,わが国の高次脳機能障害に携わる関係者にとって,大変有用な著書になっています.
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