書評
「外傷性脳損傷ハンドブック—診断と治療・評価・後遺症の管理 現場で役立つ臨床マニュアル」—アルシニェガス,ザスラー,ヴァンダープローグ,ジャフィ【編】 松村 明【総監訳】 羽田康司,丸島愛樹【監訳】
鈴木 倫保
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1山口大学医学部先進温度神経生物学講座
pp.635
発行日 2020年6月1日
Published Date 2020/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201573
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この度,筑波大学脳神経外科学教授の松村明先生の総監訳による本書を拝読する機会を得て,目から鱗が4,5枚落ちた。本書は,正に本邦脳神経外傷治療の欠落点,即ち外傷性脳損傷(TBI)後のメンタルヘルス・リハビリテーションの問題を長年にわたり悩み抜いた訳者の方々が,米国のアルシニェガスを中心とした編者らによる治療マニュアルを紹介することによって,欠落点を埋め直す取り組みと理解された。その内容がTBIの急性期病態や治療の項目がごく僅かである事に驚かれる読者も居られよう。しかし,編者が大部を割いて記している,TBI慢性期の認知・感情・行動・感覚・運動障害の疫学,評価,治療こそが本邦においては,これまで等閑にされていた欠落点であった。更に,それらによって二次的に引き起こされる精神的・社会心理的なメンタルヘルスの悪化は,言わずもがなであろう。
TBIに立ち向かう救急医や脳神経外科医は,急性期治療を100%行えば,患者を外来で自分たちが診る必要は無いと考えているだろうが,患者や家族にとっては急性期病院を退院したその日から,長い長い慢性期の治療が始まることを思い起こす必要がある。読者も脳神経外科医や救急医等の急性期の医師ばかりでは無く,リハビリテーション・精神科等慢性期治療に携わる医師,及び看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床心理士,心理学者等の多職種を対象としており,大変わかりやすく記載されている。そのために,世界中で新たな公衆衛生学上の大問題としてクロースアップされているTBI慢性期治療に携わる本邦の医療従事者にとっても,大きな福音となるだろう。
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