Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
内村祐之の『わが歩みし精神医学の道』・2—国民優生法・優生保護法への態度
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.500
発行日 2020年5月10日
Published Date 2020/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201953
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昭和43(1968)年に発表された内村祐之の自伝『わが歩みし精神医学の道』(みすず書房)には,昭和15(1940)年に国民優生法が制定された時に東京大学教授としてその成立にかかわった当時の状況が描かれているが,内村は,この法律の成立過程には不審を覚えたとして,「最初の間の提案が,日本民族衛生協会という,精神医学者をほとんど交じえない団体によって提出され,しかも,その法案が不完全きわまるもの」だっただけでなく,中心になったのが「生理学者や公衆衛生学者であって,この法律の最も大きな対象となるであろう精神疾患について,正しい学識と経験とを持っている人は,その提案者の中にいなかった」ことに憤りを感じている.
また,一連の会議で印象的だったのは,他の専門領域の委員と違って,「精神医学畑の人々が,優生保護法について,終始,消極的,懐疑的の立場を採っていたことである」として,精神医学関係者はこの法案に次のような疑問を抱いていたという.「生殖可能な精神疾患者の中から,その子孫に確かに悪質を遺伝すると確言できる者を,多数えらび出すことができるであろうか,それが,患者の家系内にある良質を同時に摘み取ることになるのではなかろうか,それから,患者を収容すべき精神病院を整備することは後廻しにして,こんな方法を採ることが,果たして正当な政治であろうか」.
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