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はじめに
第二次世界大戦後の精神科医療の歴史を振り返ってみると,それ以前と比べて精神疾患の病態に対して非常に大きな変化があったことがわかる.この変化には抗精神病薬の発見とその薬理作用の研究が非常に大きな要素であったことは間違いがないし,またさまざまな画像医学技術や分子生物学などがさまざまに融合する形で方法論が発展し,これらによって精神疾患の病態が明らかになっていったということもある.このような変化は,精神科の医療を大きく変えた.結果としてできた外来を主体とする精神科医療の場は,日に日に広がっている.30余年前筆者が医師になったころは,病棟における統合失調症の治療が,精神科医療の大きな割合を占めていた.現在も統合失調症は精神科における重要な疾患ではあるが,この30年間のなかでは外来における精神科医療の果たす役割は,非常に大きくなっており,さらには対象となる疾患の割合も変化している.私的なデータではあるが,筆者が東京都内で勤務している外来のみの精神科クリニックにおいても,初診患者のうち,うつ病の占める割合は約3分の1であった(2015年調査).このように外来精神医療におけるうつ病治療の重要性は非常に高くなっている.
一方,厚生労働省は2011年に,精神疾患を,がん,脳卒中,心臓病,糖尿病と並ぶ「5大疾病」と位置づけて,重点対策を行うことを決定した.さらに,職場におけるストレスチェックの義務化も昨年12月から始まった.さて,5大疾患のなかにも含まれる生活習慣病(高血圧,脂質異常,糖尿病,肥満)の予防と治療には,運動療法が非常に有効であることはいうまでもなく,職域においても運動が奨励されている.一方で近年の研究では,うつ病に対しても適切な運動療法が治療的効果をもつことが報告されている.うつ病に対する運動療法は非薬物的治療法であり,予防的効果への期待に加えて身体的健康度の向上も間違いなく伴うものであり,今後積極的に精神科医療にも取り入れられるべきものと考えられる.また,運動療法が認知症や注意欠如・多動性障害を含む発達障害に効果があるという知見も出始めている.本稿では,このような精神科疾患に対する運動療法の現状について,主にはうつ病運動療法について解説し,後半では日本スポーツ精神医学会と学会が認定するメンタルヘルス運動指導士の資格について概説する.
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