Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
村上春樹の『ノルウェイの森』—開放的な療養施設
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.940
発行日 2016年10月10日
Published Date 2016/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200750
- 有料閲覧
- 文献概要
精神障害者の人権擁護を旨とする精神保健法が制定された昭和62年,村上春樹は,そういう時代の雰囲気を察知したかのように,自由で開放的な精神科の療養施設を描いた『ノルウェイの森』(講談社)を発表している.
主人公の恋人・直子は,昭和45年に京都市内からバスで1時間以上かかる山奥にある阿見寮という施設に入る.「きれいな空気,外界から遮断された静かな世界,規則正しい生活,毎日の運動,そういうものがやはり私には必要だったようです」と語る直子によれば,この施設では70人ほどの患者が生活しているほか,医師や看護師などのスタッフが20人いた.直子は,この施設のことを,「広々として,自然に充ちていて,人々はみんな穏かに暮しています」と語っているが,この施設では,バスケット・ボールのチームも患者とスタッフが入り混じって構成されるため,ゲームに熱中しているうちに,誰が患者で誰がスタッフなのかがわからなくなるのだと言う.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.