書評
木村彰男監修,正門由久,太田哲生 編集「脳卒中上下肢痙縮 Expertボツリヌス治療―私はこう治療している」
水落 和也
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1横浜市立大学附属病院リハビリテーション科
pp.907
発行日 2014年9月10日
Published Date 2014/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552110638
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臨床実習でボツリヌス治療見学の学生に私は2つの質問をする.① ボツリヌス食中毒の原因食物を挙げよ.いずし,きりこみ,辛子れんこん,このあたりは勉強をしていなくても社会の出来事に関心がある者は答える.はちみつ,缶詰・ビン詰めなどの保存食品,これは公衆衛生の講義をしっかり聴いていた学生が答える.もう1つ大事なものを忘れていませんか? ……ハム・ソーセージです.ボツリヌス菌の語源になったラテン語のBotulusは腸詰め,つまりソーセージのことなのです.これはほとんどの学生が知らないので,指導医の面目を保つわけである.質問 ② ボツリヌス中毒の症状はなにか.複視,四肢の脱力,発声困難,呼吸困難などが出れば優,神経終板におけるアセチルコリンの放出を阻害し呼吸筋麻痺を引き起こし致死率が高いと答えれば秀である.① の質問は患者さんも交えてその場を和ませるのに役立つが,② はこれからまさにボツリヌス治療を受ける患者さんの不安をあおることもあるので,処置が終わってから学生だけに質問するのが賢明である.このような毒物を病気の治療に応用しようとした発想と勇気に,そしてその毒物を精製し,医薬品として安全に用いる技術を生み出した人間の探求心とに畏敬の念を抱いてもらえば,医学教育の最適な教材になる.
わが国では1996年に眼瞼痙攣に対する治療として承認されたA型ボツリヌス毒素の適応が2009年に小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足に,2010年に上肢・下肢痙縮に対して拡大されたことによりボツリヌス治療は脳卒中や脊髄疾患,神経変性疾患など多彩な神経疾患における痙縮治療に広く用いられるようになってきた.
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