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はじめに
哲学者ウィトゲンシュタインは「手を挙げる」という事実から「手が上がる」という事実を引き算すると何が残るのかという疑問を提示した.答えは上肢を挙げようとする意図であろう.意図はさまざまな目標達成のために一連の行動をすることである.しかし日常の行動で意図を常に自覚しているわけではない.最近の認知科学において意志決定や行動に関わるシステムとして,「早い自動的な直感的システム」と,「遅い統制的システム」を分ける1).直感的なシステムは,ほぼ常に働いており,外界をモニタリングしてすばやく反応する.その反応は長年の学習により身についた習慣的行動であったり,情動的行動であったり,接近的行動や回避的行動を含むもので,無意識的に知覚と反応を結びつける多様な認知行動群である.知覚と反応を結びつけるといっても,単純な反射のような行動だけでなく損得判断,価値判断,他者の意図認知など高次の直感的判断にも関わる.一方で遅い統制的システムは,いつでも働くわけではなく,直感的なシステムが対応できない新規な状況や,非習慣的な行動特に問題解決などで作動する.自動車の運転や,携帯電話の操作もほとんど一つ一つの行動や意図を意識せずに行える人も多いであろう.遅い統制的システムは早い自動的システムの制御する行動をモニターしながら,その行動結果が予想通りであれば介入せずに,同時に別なことに行動制御,例えば会話などの行動に関わることもできる.早い自動的な認知システムが活動しているとき,われわれはその中身をほとんど意識せずに受け入れている.そのため行為者としての本人の意図が明確でなかったり,実際の行動と解離していることがあり得る.したがって認知的行動制御の理解のためには,行為者本人の内観だけでは不十分であり,行動を客観的に外側から見る視点(バイオニクス)と内側から見る視点(脳科学)からアプローチすることが重要であり,以下に概略を述べる.
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