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はじめに
運動強度の増加と共に腎血漿流量(Renal Plasma Flow;RPF)と糸球体濾過値(Glomerular Filtration Rate;GFR)が低下することは知られており,これが腎臓病患者に対する運動制限の根拠の1つである1-3).しかし,入浴(緩和な温熱負荷)のRPF,GFRへの影響に関する報告は多くないので,私たちは入浴による影響を検討した.
室温を上昇させた高温時でのヒトのRPF,GFRを調べた実験はあるが1,2,4-6),RPF,GFRは常温時と比較して変化なしか,または低下する,と結論されている.サルをビニールシートで被い,温水を循環させ高体温に維持し,高体温の腎に及ぼす影響を調べた研究では,サルを40℃,42℃,43℃の高体温に維持すると,42℃,43℃でクレアチニン(Cr)が上昇し,43℃から40℃,38℃に下げるとCr,尿素窒素がさらに上昇するというように,体温上昇は腎とその生体に障害を与えると報告されている7).犬の実験で2,4-dinitrophenol(2,4-DNP)による高体温の場合には,尿素窒素,Crは体温上昇では大きな変化なく正常範囲内で変化したが,43℃の高体温後,腎は急性腎不全の病理像を呈したと報告されている8).熱中症で死亡した症例の剖検腎でも尿細管への影響が認められており9-11),悪性高熱症でも同様である12).すなわち,高体温は臓器不全を起こすと解釈されている.高体温時,皮膚表在血管が拡張し,血液が表在血管を循環する.このため血液は表在静脈に貯留し,内臓への血流量,すなわち腎血流量は増加しないというのが一般的な考え方である6).
しかしながら,これらは41℃~42℃以上の高体温下の影響であり,通常の私たちが行っている入浴程度で臓器不全となる程の影響があるとは考えにくい.41℃前後の温水に入浴することにより,温熱効果で心拍数は増加するが血圧は上昇せず,心拍出量が増加し,末梢血管抵抗が減少する13-18).さらに,水中にいることによる静水圧と浮力の影響が加わって,血液の皮膚表在静脈への貯留が減少し,これに伴い,むしろ従来考えられていたよりは腎血流量が増加するのではないかという考えを持つに至り,本研究を行った.
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