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はじめに
嚥下とは通常飲食物を口腔から胃まで送り込む一連の運動をいい,生命を維持するために必要な機能の一つである.一般に嚥下は食塊が移動する部位と,神経支配領域や筋の構造により食塊が口腔から咽頭へ移動する第1(口腔)期,咽頭から食道へ移動する第2(咽頭)期,食道から胃へ移動する第3(食道)期の3期に分類できる1~3).この中でも咽頭期の障害が最も多く,外からこの過程を観察することは難しい.そこで,嚥下運動を動的に捉える方法として,X線透視ビデオ撮影(Video Fluorography,VF検査)が行われている4,5).VFを用いた研究には,体位および食物形態の違いが嚥下動態に及ぼす影響を調べたものは多い6~8)が,頭部の位置の影響についてはあまりない.
Logemann9)は6人の健常者と5人のWallenberg症候群患者の嚥下器官運動および口腔咽頭期の食塊の通過時間(Oral Pharyngeal Transit Time: OPTT)を調査した.また,頸部の回旋の影響を調べるため,左右90度に頸部を回旋し,嚥下効率(1回の嚥下運動で嚥下できたバリウムの量)やOPTTの測定を行った.この結果,健常群では頸部の回旋の影響はほとんど認められなかったが,患者群では麻痺側に90度回旋した方が嚥下しやすいことがわかった.また,健常群でも梨状陥凹通過時の食塊の通過方向が一測性の者が6名中2名いた.しかし,梨状陥凹通過時の食塊の通過方向が一側性と両側性とでは食塊の通過状態および所要時間にどのような違いがあるのか,また頭部の位置を変えたときの嚥下動態についての研究は見当たらない.
そこで,本研究ではVFを用いて,正常成人男性30名の頸部左右側屈および前後屈曲伸展時のバリウムの咽頭期通過時間(Pharyngeal Transit Time: PTT)および通過方向の変化を観察する.本研究の目的は①正常者におけるバリウムの咽頭期通過の方向性はどうか,②頭頸部左右側屈によってその方向性が変わるのか,③頸部の前後屈(屈曲・伸展)時のPTTは0度のときと違いがあるのか,④バリウムの咽頭期通過方向が両側性の者とその他ではPTTに違いはあるのか,の4点を調べることである.
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