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なぜ包括医療か?
包括医療(comprehensive medicine)とは,従来の診断・治療という狭い領域にとどまることなく,健康増進から健康保持,疾病予防,早期発見・早期治療,診断・治療,リハビリテーションまでの連続的なスペクトルの中で医療を供給してゆくことを意味する1).このように医療の概念が広がった原因として,まず社会の変化を挙げる必要がある.国民全体が貧しく,社会保障制度が整備されていなかった時代には,医療を受けたくても受けられなかったことが多く,こうした状況下では医療の対象を診断・治療に限定さぜるを得なかった.しかしながら,現在では医療は国民の権利として認識されるようになり,また国民生活の向上に伴って健康は最大の関心事になっている.一方,受療するうえでの障壁もほぼ解消され,昭和60年の国民健康調査によると,医療機関にかからない理由として,「費用がかかる」,あるいは「近くにない」を挙げた者は全体の0.5%に過ぎない状態となっている2).
こうした社会の変化と同時に起きた疾病構造の変化にも着目する必要がある.図に示されるように,昭和30年から50年の間に受療の中心は感染から成人病に置き代わっている3).感染症の場合は,感染の有無によって正常と異常を区別し,医療の対象とすべきか否かを判断することは比較的容易である.ところが,成人病の場合は糖尿病や高血圧症のように正常と異常の境を人為的に設ける必要があり,それだけにどの時点から医療としてかかわるべきかを決めるのは困難である.そして,関与する場合も,無症状の高血圧症に対する降圧剤の投与に見られるように,どこまでが予防で,どこからが診断・治療であるかは必ずしも明らかでない.また,いったん発症すると完全に治癒することが少ないので,障害の予防や回復を目的としたリハビリテーションと健康増進の境界も不明確になってきている.すなわち,成人病においては医療の対象を診断・治療に限定することは困難で,また各スペクトルの区別も曖昧であるという疾患の性質からも包括医療の概念を導入する必要が生じたといえよう4,5).
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