Japanese
English
特集 リハビリテーションと疲労
疲労の概念
Fatigue.
酒井 敏夫
1
Toshio Sakai
1
1東京慈恵会総合医学研究センター
1The Jikei University, School of Medicine.
キーワード:
疲労
,
産業疲労
,
疲労感
,
肉体疲労
,
精神疲労
,
疲労困憊
Keyword:
疲労
,
産業疲労
,
疲労感
,
肉体疲労
,
精神疲労
,
疲労困憊
pp.579-584
発行日 1987年8月10日
Published Date 1987/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552106564
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Ⅰ.研究の歴史と疲労の概念
疲労という言葉は,一般的通俗的な表現で使われ,必ずしも学問的レベルでの定量化の対象には至っていない.しかし,日常生活の人間のいろいろな活動の中で「疲れた」という感覚はすべての人々に共通し,所謂疲労という言葉は何ら疑いなく理解されていると云ってよい.強度な肉体的あるいは精神的負荷は生体の機能を低下させる故に,いずれの職場にあっても,それぞれの作業能率が下がらない工夫が要求され,且つまた低下した機能が再び元の状態に速かに戻る工夫が実施されている.この様な通俗的な表現と見做される疲労は,労働衛生学領域においては学問的なレベルでの概念として位置づけられる努力がなされた(表1).
この努力の足跡を歴史的に辿る時,その発症をわが国では労働科学研究所に求められ,暉峻義等の横手社会衛生叢書(大正14年,金原書店)の中の「産業疲労」は少くとも疲労研究の創設期における問題点を人間を対象とし,特に集団としての疲労を学問的に把えようとの試みであった.しかし,悪戦苦闘の結果として暉峻は,疲労そのものが生物学的現象であるにも拘らず,同時に経済的・社会的現象の要素が多いために医学的な立場での明快な定義を下すことは困難であると見た.恐らく生理学的方法が人間を対象として十分利用し,且つ応用の域に至っていなかった時代にあっては,疲労を生理学的医学的方法のみによる追求には時期尚早であると感じとっていたのであろう.方法の確立が無いままでの疲労研究が続く中で,以後の論文には産業疲労の研究方法を批判し,あくまでも生理学的立場での方法論の追求が必要であることを述べている.
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