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はじめに
医学の中で,リハビリテーションという専門分野があつかう領域は大変幅広いものであり,正直いってわからない.今回,「骨・軟骨基質の生化学」というテーマをいただきいささか困惑しているのも事実である.従来より整形外科と非常に関連の深い理学療法は,その一部であり,運動療法,温熱療法,水治療,マッサージ,装具療法などの過程で,種々変化が局所関節にみられると思われる.しかし実際,骨・関節の具体的な変化は検討されていない.骨・関節の細胞,すなわち,骨芽細胞,軟骨細胞の機能の反映と考えられる基質(マトリックス)の問題がどうなっているかほとんどわかっていない.
最近さかんにCPM(Continuous Passive Motion)装置が整形外科の治療領域にとり入れられてきた.たしかに関節の拘縮を防止しCPM装置を使用しての結果は良好である.私自身の反省を含めてのことであるが,私は5年前,始めて米国UCLAの人工関節セミナーに出席し,CPMの話を聞き,少なからず興味をもち,帰国後,教室でその話をしたが,全く見向きもされなかった.装置を借りてきて,皆に使用するよう推めても使用者もなく,1カ月間装置は放置されたままであった.当時他動運動のはたす役割はせいぜい自動運動ができなくなった場合の補助的な意味での拘縮防止を目的に行われる程度であった.5年間にその評価の変動は,おどろくばかりである.連続した受動運動は,関節軟骨修復に良好という.5年前のセミナーの折,CPM装置使用時における局所関節内の関節液,特にヒアルロン酸の関節内・外への出入りが予想され,質問してみたが,解答はなかった,修復が良好ということは,その局所でCPMの結果,関節軟骨代謝面で何らかの好影響が生じているはずである.
また骨の問題では,創外固定,脚延長で,種々装置が用いられている.De BastianiのDAF(Dynamic Axial Fixator)は,仮骨延長術に使用された場合,仮骨の延長後,ある程度骨形成をみた時,さらにaxialloadingを加え骨形成を刺激するが,それが容易にできることがこの装置のキャッチフレーズの一つになっている.Axialに加えられた骨への刺激の結果,何がどう分泌され,骨芽細胞がどう反応し,骨形成が旺盛になるかなど全くわからないのが現状である.
水治療を考えた場合,関節局所の筋,靱帯,関節包などを強化し,拘縮をふせぎ,関節機能の再建に有効であることは予想される.血友病患者,特に小児で,くり返す関節出血が同部の水治療でよく改善するという.これは大人になり,血友病の原因である因子量に変化がなくても,その関節内出血の頻度が減少する事実もあり,おそらく関節周囲組織の強化が関節出血防止に良好に作用したと考えられる.
このようにリハビリテーションの一部としておこなわれている種々治療法のどれ一つとっても,それは結果としてよいということでその理由,機序はあまりよく説明できていないことも多いように思う.これは何もリハビリテーションにかぎったことではなく医学が治療学を優先させねばならない宿命でもある.金療法の作用機序はよくわからないがRA治療にはよく効果があり,なくてはならない治療法になっているのもその例である.
特に最近バイオメカニクスと生物学の合体がさかんにいわれ,mechanical biologyなる言葉を聞くことも多い.軟骨細胞培養下に種々loadを加えた実験も行われているが,あまりにも条件設定が人工的すぎるとの批判もある.運動器を対象として行うリハビリテーションの過程で生ずるであろう骨・軟骨の問題を,今後基礎的な,特に骨・軟骨の代謝の面からとらえてゆくことは重要と考える.
今回の特集が,そうしたことを目的にとりあげられたと判断し,特に骨・軟骨のマトリックスの生化学的な面に視点をあて解説したいと考えている.
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