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はじめに
技術を広く定義すると「科学の応用」ということになる.従って,この講演のタイトルは,科学の応用がリハビリテーションの中に新しい本当の意味での解決をもたらしていることを示すものとなっている.このことは確かに事実なのであるが,これらの解決の一部を検討し,多岐にわたる問題を考察することは興味深いことである.ここで用いられている事例は,義肢・装具の分野からのものである.なぜなら,私は,義肢・装具の分野での大規模な教育機関の学部長ならびに国際義肢・装具協会会長としての役割を果たしていて,多くの経験を持っているからである.しかしながら,基本的な原則は,技術がリハビリテーションに影響を及ぼすすべての分野に当てはまる.
補装具技術の歴史的な発展についての正確な記録は存在していない.しかし,四肢切断の発生理由や切断者の社会的状況を考えると,その発展には,軍医,武具師,工芸家が主としてかかわっていたことは確かである.
移動障害への対応には,1950年代のはじめまで何世紀にもわたってほぼ同じ方法が用いられていた.それは,科学の応用ではなく,工芸の応用であった.
第一次世界大戦は,おびただしい数の肢切断者を生み出し,多くの場所で義肢製造者の技術が正式に評価されるものとなった.そして,第二次世界大戦によって,肢切断者の数は更に激増した.このような中で,工芸を基盤とする義肢製造の増大以上の対策を考えた国はほとんどなかった.しかし,米国では,義肢の性能や装着感に対する不満の高まりの中で,一部の先進的な行政担当者や医師は,この問題の解決のために科学を応用することを提案した.この提案からカリフォルニア大学バークレイ校で「人間の移動に関する基礎研究」が行われるようになった.このことは,この分野での画期的な出来事であったが,それはこの研究が解決策を生み出したということではなく,技術的なアプローチが開始されたということに過ぎなかった.
この基礎研究の目的は,人間の移動のプロセスをシステムとして研究し,それを数量化することであった.最初に行われた主要な研究は,実験によって人間の移動に含まれる動作と力を分析することであった.現在では,一層精密な測定システムが開発されているのであるが,これからは健康な普通の学生に実験に参加して,映像カメラのマーカーとして骨の突起部にピンを差し込むことを頼むことは恐らくできないであろう.これらは,生体工学的に各種の力とその力が人間の身体にどのような影響を及ぼすかを研究するものであった.従って,義肢・装具は応用生体工学の一部門となり,工芸ではなく科学として認められることになった.
しかし,工芸から科学への移行は,すぐに義肢・装具に革命的な変化をもたらすものではなかったことを指摘しておかなければならない.むしろ,第一の発展段階としてのプロセスが開始され,従来のアプローチが検討・解釈されて,改善への手掛かりとなったということである.
工芸から科学への移行に伴う当然かつ必要な副産物として,義肢・装具製作者への訓練・教育の変化があった.そこでは,手作業や即時の対応よりも,むしろ科学的な基盤が求められるようになった.それは,生体工学による分析を問題解決のために応用する能力である.工芸から専門職への変化はゆっくりと開始され,40年近くを経過した現在でも,まだ全面的に入れ替わるまでには至っていない.
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