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はじめに
糖尿病とはインスリンの作用不足により生じる疾患である.従って糖尿病治療の基本はインスリンの作用不足をできるだけ解消することにある.それによって患者が自覚症状もなく,合併症の発症・進展を阻止し健康人と変らない社会生活を営めることが治療の最終目標である.
膵臓ラ氏島のB細胞で産生されたインスリンは,ブドウ糖をはじめ種々の刺激によって血中に放出され,肝臓を通り,筋肉や脂肪などの標的組織に達する.ここでインスリンは細胞膜にあるレセプターと結合し細胞内にとりこまれた後,生理作用を発揮する.従ってインスリンの作用不足といってもその原因としていろいろな可能性が考えられる.このように糖尿病は多様性のある疾患であるが,1985年WHOは,糖尿病を表1のように分類した1).このような分類の背景として治療にインスリン注射を絶対的に必要とするか否かなど,臨床的差異と同時に成因の差も想定されている.糖尿病の成因は現在なお不明な点が多く残されているが,ここ数年,免疫学的検索や遺伝子レベルの解析など精力的な研究により,多くの知見が集積されている.なかでもインスリン依存型糖尿病(IDDM)の病因に自己免疫機序が大きく関与していることを裏づける所見が蓄積され,一部には積極的にこの原因に対する治療も試みられている.すなわち動物実験ではウイルスによる糖尿病の発症をワクチンの予防接種やインターフェロンにより防ぐことができたという報告がみられたが,ヒトにおいても発症間もないIDDM患者にcyclosporinを投与したり,血漿交換を行うことが有効であるとの報告がみられた2,3).このようなIDDMに対する原因療法ともいえる免疫療法は糖尿病を治癒せしめる期待をいだかせるものではあるが,現在この治療法はまだまだ研究段階のものであり,安易に一般臨床に導入すべきものではない4).
また一方ではインスリン不足を根本的に解決する治療として膵臓移植がある.膵臓移植には血管吻合を用いた膵臓移植と分離ラ氏島移植があり,欧米では約500例近くの報告がみられるが,その臨床成績は不満足なものでこの治療法も未だ治験段階の域をでない5).
以上述べてきたように,糖尿病を治癒する(cure)治療法は興味深いものであるが今なお一般臨床に応用できる段階ではなく,食事療法,運動療法,薬物療法を患者教育によって,より効果的なものとし,糖尿病を管理すること(care)が臨床医にとっての現在の治療である.これら食事,運動,薬物療法は古くからいわれている治療法ではあるが,その内容は年々進歩し,新しい知見や試みが発表されている.本稿ではそれぞれの領域における最近のトピックスをとりあげ概説したい.
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