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はじめに
発病前の機能をとりもどせないまま,地域社会の中で,新しく生活を組み立てていかなければならない人々にとって,病院は,これからの長い闘病生活をするための,ほんの僅かな準備期間でしかない.
健康人が考える以上に諸々の面で,入院生活と家庭生活との格差は大きいと言われている.たとえば,入院中はPT,OT訓練一つにしても,プログラムが組まれており,毎日規則正しい生活ができるよう時間は小刻みに調整されている.しかも常に大勢の同病の人々やスタッフとのかかわりがあるので,全体の流れの中であまり不自然さを感じないで生活ができる.しかし家庭に帰ると,障害者は,健康者の生活のリズムに自分を合わせなければならなくなる.たっぷり時間はあるが,それをプログラミングするのは自分自身である.しかも,今度は退院というはっきりした目標もない.入院中は,常に患者に目を向けている医療者や,悩みを相談しあえる同病者達の集団の中で支えられていた.退院後はそれがぷっつりと切れ,社会の中で,家族と共に孤立してしまう危険にさらされているといえよう.
このようなことを考えてみても,病棟での患者の生活が,単にいわゆるおしきせのADLの獲得に終始するのではなく,もっと個人の人間性が満たされ,生きていることに喜びを持ちうるような,しかも,それが退院後の生活にも連続しうるような,生活であってほしいと願わずにはいられない.
そのためには,患者や家族が,早くから自分達の生活を組み立てる.すなわち,“自分のことを自分で決定できる”ことが必要で,入院生活の中での看護の援助の視点も,それを見失ってはならないと考える.
以上のような考えを具体化する1つの試みとして,当院では昭和58年,病棟の模様変えを機会に,病棟内に,“生活指導室”と“退院前病室”と名づけたスペースを設定した(図1).以下にその概要について,使用症例を通してのべる.
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