Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
近年整形外科を訪れる患者の平均年齢も次第に高くなり,変性を基盤とする疾患も多くなってきた.
一般に変形性関節症とは,関節構成体に慢性の退行性および増殖性変化が生ずる病態を総称し,臨床的には主としてX線像の形態学的変化を基準に判定している.しかし,その成因や本態については,いまだ見解の一致をみていない,すなわち,Pommerの機械的機能説,Preiserの静力学的説,Bauer,Bennettらの持続外傷説,Wollenbergの局所阻血説,Harrison,Tructaらの充血説,その他炎症説などがある.
本態についても変性疾患とするものと炎症性疾患とするものがあり,またその病態を関節軟骨や軟骨下組織等の硬組織に求めるもの,滑液膜に求めるもの,全身疾患の関節変化と把えるものなどが主なものである.
わが国においても1918年,山極ら1)が老人の膝関節の変化について詳細な発表をし,Arthrosis deformansといわれるものは老人性退行性変化に他ならないからArthropathia deformans senilisと命名すべきであると述べている.
変性疾患の診断に際してX線学的検討の重要さは言うまでもないが,解剖学的な変化があっても,これがすべてX線像に現われるとはかぎらないし,臨床症状の出現する以前に関節軟骨面の破壊が先行していることをしばしば経験する.児玉2)は腫脹,疼痛などの臨床症状を伴うものをclinico-deformansとし,roentogenodeformansと区別している.一方,Hackenbroch3)は形態的変化のみで炎症性病変を伴わないものをpraearthroseといい,炎症性病変を伴って腫脹,疼痛などの臨床症状を現わすものをreizzustandと区別している.
Watermann,Mohing4)らはX線像でみられる変形性関節症様変化は,膝関節が他の関節に比ベて多く,また比較的早期に現われるという.
Bennett5),Rütt6),Heine7),山極1),牧野8)らの屍体膝関節の観察でも,軟骨の変性は早いものでは10歳代から,多くは20歳初期より始まり,年齢が進むにつれて関節面の破壊されているところが一般に著明であるという.
一旦変性を生じた軟骨面は,その後の生活様式によっても進行が大きく左右されるであろう.従来の外国文献にみられる膝関節面の変化ば,主として歩行運動域の荷重面のものであるが,正坐やしゃがみこみ等の特有な生活様式を用いる日本人にとっては,坐位運動域での変化も大切である.膝関節面のわずかな変化も,日常生活で正坐や便所の使用に困難を生じる原因となるであろう.
われわれが変形性膝関節症(以下膝関節症と略す)患者の臨床像を検討した時9,10),その特徴は日常動作で正坐やしゃがみこみの姿勢で疼痛があり困難なこと,階段昇降時痛,立上り痛および歩行痛などの荷重時の疼痛であった.
膝関節症の病態を究明する目的で,関節機能に重要な影響を及ぼすものと考えられる関節面の変化を肉眼的に観察した.
Copyright © 1978, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.