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はじめに
Hyperkinetic heartとは,甲状腺機能亢進症や重症貧血心,脚気心,動静脈瘻などに共通したもので,頻脈,高心拍出量,心収縮能増強,循環時間の短縮,脈圧の増大(収縮期性高血圧もしくは拡張期圧の低下)などによって特徴づけられる.このhyperkineticあるいはhyperkinetic heartなる言葉は,わが国では適切な訳語がないためか,そのままで用いられることが多く,一部で過心運動1),血行動態亢進2),用語はやや異なるがhyperkinesiaは多動,過運動症3),運動過剰4)などと訳されている.
さて著者らは,甲状腺機能亢進症にみられるhyperkineticな状態がβ遮断剤のプロプラノロールできわめてよくコントロールされるのみでなく,β受容体刺激物質のインプロテレノール投与時に一層この状態は顕著となり,その際の心拍数や心拍出量の増加が対照に比して有意に強いことから,β受容体の反応性が亢進した状態として把握出来るのではないかと考えた.なおこの反応性交信状態は,冒頭に述べたいくつかのhyperkinetic heartのうち,甲状腺機能亢進症以外は検討されていないが,おそらくは存在しないと思われる.
ところでこの見解を持つに至った頃,18歳の少年が,体動時および起立時の動悸,めまい,意識障害発作を主訴として入院した.その詳細は原著5)にゆずるが,要するに原因疾患が明らかでなく,心因性かと思われるもので,甲状腺機能亢進症と著しく類似したhyperkinetic heartを呈し,プロプラノロールの経口投与が著効を呈した症例である.本症例を日本内科学会北海道地方会で発表する少し前に,Frohlichら6)が,同様な症例をhyperdynamic beta-adrenargic circulatory stateなる名称で報告したのを知り,同地方会では一応その名称を借りて発表した.
以後症例を増して,種々の面から検討し,交感神経β受容体反応性亢進状態なる名称を呈示した.最近では,一般にこの名称が用いられるようになり,同じ名称で本論文の原稿依頼をうけた.しかし,この名称をもって一連の病態を定義づけるよりも,hyperkinetic heartで,甲状腺機能亢進などの原因を明らかにし得ない所から,idiopathicの語を冠してidiopathic hyperkinetic heart syndrome特発性過動心症候群として理解する方が適切であると考えるに至った7).この間の見解の変遷とその理由,本症候群の特徴などに関しては,最近発表した8)通りである.したがってこれと重複する所も多いと思われるが,その後に経験した症例を加え,今一度概念を整理して本症候群につき総説する.
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