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パラリンピック(脊髄損傷者のオリンピック)の生みの親としてグッドマン博士は有名である.又彼の教えを受けた学者が世界各地に脊髄損傷センターを創立し活躍している.西独のハイデルベルグにあるGuttmann Centreは有名である.私も昭和35年の夏ロンドン郊外の国立脊髄センターを訪れて以来師事しているが,彼ほど脊髄損傷に生涯をかけた医師はないと思う.1923年よりBreslau大学で神経外科医として研修をつまれ,その後渡英して1944年2月にロンドン西北100kmのStoke Mandeville に国立脊髄損傷センターを創設され数年前まで所長として脊髄損傷の研究並びに臨床を一貫してやってこられた.今では脊髄損傷研究のメッカとなり多くの医師が訪れ教えを受けている.今は退官されたが非常にお元気で身障者専用の体育館の館長をされており国際パラリンピック理事会や国際パラプレジア医学会を主宰されている.昭和39年秋に行われた東京パラリンピックの折には彼が今迄脊髄損傷に対し尽した功績をたたえて外人医師には異例の勲三等旭日賞が授与されたし,英国でもその直後Sirの称号が贈られている.今回彼が英国で国立脊髄損傷センターを創設して以来約30年間にとり扱われた約4,000例以上にのぼる脊損患者の臨床と研究の成果を一冊の単行本にまとめられ,このほど出版された.694頁,8章,40節からなる書物で脊髄損傷の歴史に始まり,各国の脊髄損傷治療の現状についても広く述べられている.脊髄の解剖,神経生理,神経病理等実に明快かつ詳細である.彼はBreslau大学時代にはよく手術をしていた.然し現在は彼の豊富な経験から観血的整復には極めて消極的である.初期治療は彼独特の2時間おきのPostural Reductionで見事な整復効果をあげている.最近はモーター利用の特殊ベッドを開発され便利になった.また合併症の予防や治療,直腸,膀胱麻痺,性機能についての対策,心理的問題にまで及んで述べられている.
次いで理学療法や作業療法から,身体障害者スポーツについて彼独特の方法と理論が書かれている.特に心をひかれたのは第11胸髄以下完全麻痺の外科医の社会復帰の実例で特殊な装具を使って手術でも何でもしているのには驚嘆した.リハビリテーションは治療から社会復帰までとよく言われるが,この本は脊髄損傷に関するすべてがグットマン博士の一生をかけた豊富な経験と実践に基いて,その理論と実際がこの一冊の書物にまとめられている.この専門書は脊髄損傷に興味をもたれる医師のみならずPT,OT,などのパラメディカルの方々の書でありこれによって最も気の毒な脊髄損傷患者の治療が正しく行われ社会復帰が促進されることを信じて疑わない.グッドマン博士が今後ともお元気で脊髄損傷の研究と実践活動を続けられ多くの後継者に温かいご指導を賜わりますよう祈りつつ今日までのご努力に限りない賞讃をおくりたい.
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