連載 Relay Message・第10回
こんな状況でも楽しんでんねん
矢野 恵夢
1
1摂南総合病院
pp.1224
発行日 2020年10月15日
Published Date 2020/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551202087
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理学療法士として働くなかでやりがいを感じることもありますが,複雑な事例に直面し理学療法を進めていく際の悩みや患者さんとの人間関係なども多岐にわたり,悩むことがあります.数少ない私の経験のなかでですが,特に進行性の疾患をもつ患者さんとのかかわりで悩むことが多くありました.身体機能面に関する悩みだけでなく,死生観についての話を伺うこともありました.そのため,訪室前には必ず緊張していたことを覚えています.
タイトルにある“こんな状況でも楽しんでんねん”という言葉は,進行性の疾患をもつ,ある患者さんから伺いました.関西弁のニュアンスが正しいか定かではありませんが,今でも鮮明に覚えている言葉です.この患者さんの言う“こんな状況”とは,四肢の随意性が失われ,排痰には吸引のケアが必要で,かろうじて聞き取れる程度の声が出せるという状態でした.吸引時に苦痛の表情をみせた後,いつものように和やかに笑いながら言った言葉でした.随意性が失われつつある身体を“こんな状況”と表現され,さらに“楽しんでいる”と言われた私は,自分が理解できない範疇の言葉に対して返答できず困惑したことを覚えています.
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