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はじめに
1994年のサラマンカ宣言(特別なニーズ教育に関する世界会議),障害者の権利条約採択(2006年)1),世界保健機関(World Health Organization:WHO)の総会での国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)の採択(2001年)2)など,国際的動向とともにわが国における福祉,教育も大きく変化してきている.
そのなかでも近年,脳性まひ児や小児の骨関節疾患に加えて,学習障害(learning disabilities:LD),注意欠陥多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)などの発達障害児の教育に注目が集まっている.その児たちの病態,障害像は多様で,障害の重度・重複化が進み,特別支援学校に通学する児の人数は年々増加傾向にある.文部科学省によると,2013年6月時点で,特別支援学校に在籍する児数は12万8,425人に達している.このように特別支援学校に在籍する児が増加している背景には,養護学校義務化に加え,教育環境の整備などが挙げられる.そのなかでも2003年「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議)3)において,障害のある児に対する教育を特殊教育から特別支援教育へと教育の質を踏まえた教育システムに進化させ,さらに従来用いられてきた養護学校の名称を特別支援学校へと変更し,地域のセンター的機能を有するものとして位置づけた.また特別支援教育は,これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく,発達障害を含む特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍するすべての学校において実施されるものとなった.これがすべての子供を包み込む(include)教育システムを構築し,そのなかで一人ひとりのニーズに合った教育を展開しようとするインクルージョン教育の始まりとなる.中央教育審議会では「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」が2012年に報告され4),教育環境のユニバーサル・デザイン化やインクルーシブ教育の展開に向けた新たな取り組みが始まろうとしている.
2009年に特別支援学校学習指導要領5)が改訂され,障害の重度・重複,多様化に対応するとともに,一人ひとりに応じた指導を充実するため「自立活動」の指導内容に新たな項目が追加された.また,重複障害者の指導にあたっては,専門的な知識や技能を有する教師間で協力して指導を行うことや外部の専門家を活用することが明記された6).
このように,障害児を取り巻く教育システムは質的にも制度的にも変容しており,特に特別支援教育では,児の教育的観点のみでなく地域や生活場面までを視野に入れた取り組みが求められている.そこで本稿では,わが国における肢体不自由児の障害児教育の変遷を,教育制度と理学療法士のかかわりから解説し,さらに筆者がかかわっている神奈川県の障害児教育において理学療法士が自立活動教諭として配属されている現状について触れ,特別支援教育のパラダイムシフトについて論じる.
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