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はじめに
変形性股関節症や膝関節症に代表される下肢関節症は,関節軟骨や関節の構成体の退行変性に起因する疾患で,疼痛や関節可動域制限,筋力低下を主症状としており,高齢者に多くみられる.したがって,理学療法士は下肢関節症の治療にあたり,関節の機能的側面だけに注目せず,加齢変化にも注目し治療を行う必要がある.
最近,この加齢による運動機能低下が要介護の要因として注目されてきており,2007年に日本整形外科学会はロコモティブシンドローム(Locomotive Syndrome:運動器症候群,以下,ロコモ)という新しい概念を提唱した1).ロコモとは骨,関節,筋肉など運動器の機能が衰えてきている状態で,「運動器の障害のために,要介護になったり,要介護になる危険の高い状態」と定義されており,変形性膝関節症が要因の一つに挙げられている2,3).他の要因には筋力低下,バランス低下,腰部脊柱管狭窄症,骨粗鬆症がある.これらは独立した疾患ではなく関連しながら進行していくケースが多く,多面的な治療アプローチの必要性を示唆している.また2010年度国民生活基礎調査において,関節疾患が要介護の3大原因として10.9%を占めていることが報告されており4,5),特に下肢関節症の対策が重要な政策課題となっている.
このように,加齢による全身的な運動機能の障害は,筋力の低下や“バランス障害”を来し,結果として転倒に至る危険性を有している.したがって高齢者に多い下肢関節症の理学療法では,ロコモの転倒予防の観点からもバランス機能面を含めた評価・治療が重要となる.
本稿では,下肢関節症のバランス障害の特徴と評価方法およびその理学療法の実際について述べる.なお下肢関節症は,主に変形性股および膝関節症を指すものとする.
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