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中枢神経系の障害が生じた場合,特に脳卒中患者に対する理学療法学として,近年の神経科学を基礎とした臨床推論(クリニカルリーズニング)を展開しながら理学療法を提供することが必須である.このような知識と技術を身につけた理学療法士による理学療法が行われなければ,患者にとってそれは最大の効果が期待できるものにはならない.ここに刊行された『神経理学療法学』は,卒前教育・学習のための知識を整理するための構成になっており,またその知識の裏付けとなる神経科学における近年の知見を織り交ぜて記述してあるため,中枢神経系の障害とその回復とを理解する上で,大変有益な内容になっている.また,卒後の理学療法士にとっても,近年の神経科学の重要な知見を再確認することが容易であり,知っておくべき詳細な知識に関しても「コラム」として適切にまとめられているため,臨床現場でもすぐに役立つ内容として整理されている.
脳卒中の障害に関する総論では,中枢神経系の構造と機能をはじめとして,脳卒中の発症および回復メカニズム,脳画像と臨床症状,脳卒中理学療法の評価とアプローチについて明快に書かれている.「脳卒中の障害と理学療法」の章では,意識障害,運動麻痺,感覚障害,異常筋緊張,運動失調,身体失認・病態失認,半側空間無視,失行,注意・遂行機能障害,精神・知能障害,痛み,二次的機能障害(関節可動域制限,筋力低下,体力低下),姿勢定位障害,姿勢バランス障害,起居動作障害,歩行障害,上肢機能障害と,さまざまな症状と具体的なアプローチ方法が詳細に記述されている.次の「脳卒中に対するクリニカルリーズニング」の章では,各皮質機能とおのおのの連絡経路から理解・考慮すべき症状とその解決策の考え方が,具体的なリーズニングとして基本から臨床場面での例を挙げて書かれている.さらに,上記を解説・説明する図表や写真が多用されているが,これらが大変わかりやすいということも,本書の優れている点の一つである.多色刷りであり,とても見やすく,されど詳細な部分まで精緻に掲載されており,図表を見るだけでも楽しく接することができる本だと言える.
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