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はじめに
Evidence-based Medicine1)を直訳すると科学的根拠に基づいた医療となる.しかしそれは必ずしもEvidence-based Medicineの本質を表してはいない.これから述べるように,むしろ根拠に基づかないこともある,更に基づかないほうがよいこともある,というのがEBMの実践である.そのためかどうか分からないが,最近では適切な日本語訳を作ろうという方向へはいかず,EBMと略されることが多くなってきた,ただEBMと略されたものが意味する範囲は広く,現実には,Medicineのみならず,Evidence-based Policy making,Evidence-based Nursing,Evidence-based Pharmaceutical Care,Evidence-based Public Healthなど全ての概念を含んだものとして略されている場合が多い.それに対し,狭い意味でのEvidence-based Medicineとは,まさに一患者を目の前にした患者に始まり患者に終わるものである.そのため私自身は,誤解を避けるために前者の広義のEBMをEvidence-based Practice,すなわちEBPと略し,後者の狭義のEBMをEBMと略すべきだと考えている.しかしEBMという言葉があまりに普及したため,本稿では必ずしもこのような使い分けをせず,いずれの場合もEBMと略すことにする.このあたりの混乱を意識しつつEBMという用語を理解していただきたい.これらの用語の関係を表1に示す.
EBMと略されるのをみると医師の問でEBMはすでに常識となっているように思われるかもしれない.しかし現実はEBMを正規のカリキュラムとして採用している医科大学は少なく,カリキュラムとしてあっても教える人がなかなかいないというのが現状である.ましてや薬剤師,看護婦,理学療法士などではまだまだこれからである.そんな状況のなか,対象を医師に限定することなく,理学療法を対象とした本特集が組まれたことは,EBMの今後にとってきわめて大きな出来事にちがいない.EBMは医師だけのものであってはならないと感じるからである.それではEBMはいったい誰のものか.それがEBMを語るにあたって伝えたいまず第1のことである.
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