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1.はじめに
日常の理学療法の対象となる機能障害の1つに脳血管障害,脊髄損傷,各種神経疾患や末梢神経損傷などに起因する中枢性および末梢性の運動麻痺がある.これらの運動麻痺の回復に対する理学療法は,その大部分が既に運動療法を中心とした治療プログラムとして体系化されており,広く臨床において実践されているのが現状であろう1-7).特に脳卒中後の片麻痺に対する運動療法ではその治療効果に賛否両論があるものの,様々な治療テクニックが紹介されている.
これらの理学療法やリハビリの効果については,十分な実証が得られていないものも存在するが,過去,種々の研究手段を用いてその効果の検証が行われており,多数報告されている.しかしながら,脳卒中後の運動麻痺そのものが多彩な障害像を呈することや麻痺の回復過程も様々であり,患者の異質性などを含めた多くの影響因子があるために明快な結論に至っていないのが実情のようである.今日でも,なおこれらの点について論じられたり,研究が依然として行われている背景にはこのような要因の存在を否定することはできないように思える.
理学療法あるいはリハビリの効果としての運動麻痺の回復に関する研究のほとんどは,従来の治療法と神経生理学的理論に基づくファシリテーションテクニックなどの治療法を用いた手技の比較や集中的な治療法(intensive treatment)とそうでない治療法などの治療時間の相違による効果の検証などの無作為化比較対照試験(randomized controlled trial:RCT)が大部分である.また,これらの研究内容をみると,むしろ運動麻痺の回復といつた機能障害に言及したものよりも,これらを含めたADLなどの能力障害の観点から各種の評価表を用いて相対的な運動麻痺の回復を論じたものが目立っている.これらの背景として,1980年代から米国の医療に経済効率の概念が導入され,リハビリ医療の内容が能力障害のレベルでの向上を目的としたアプローチに重点が置かれるようになったことなども影響していると思われる8).
結論的には治療介入により有意に運動麻痺や能力障害の改善がみられ,早期に行われる理学療法あるいはリハビリの効果については肯定的に捉えているものが多い.しかしながら治療手技や治療時間などの相違による効果の差異については統計的に有意差がないとするものが大半である9-18).
一方,末梢神経損傷による運動麻痺に対する理学療法の効果の検証についての報告は,中枢性神経疾患に比較して少ない.その背景として,損傷部位や傷害の程度で運動麻痺の症状が異なるために一概にはいいきれないが,不全麻痺であれば神経の回復と共に正常な機能回復が得られやすいなどの予後の問題や局所的な筋力低下を伴うが日常生活への支障が意外と少ないなど7,19),末梢神経損傷では運動麻痺の性質が中枢性の運動麻痺のそれと異なる点などが考えられる.
いずれにしても,リハビリの過程で早期に行われる運動麻痺に対する理学療法の主な目的は,麻痺の改善を図ることは当然として,運動療法を中心とした理学療法の施行による二次的合併症や廃用症候群の予防がその中核をなしており,裏を返せばこれらに対するリスク管理(全身的,局所的)であり,その結果生じる広義での身体的な変化を理学療法の効果として捉えることができる.
一言に運動麻痺といってもその範疇がかなり広いために,本稿では臨床上頻繁にみられる脳血管障害による片麻痺や末梢神経損傷による運動麻痺の観点より,早期理学療法の効果およびリスクについて文献的考察を中心に私見を交えて論じたいと思う.
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