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1.はじめに
理学療法では神経疾患や整形外科疾患などの器質的疾患とそれに由来する身体障害を治療の対象とすることが圧倒的に多いが,そのなかで心因性運動障害をもつ患者を担当することも皆無ではない.理学療法の対象となる主な心因性運動障害は,伝統的あるいは臨床診断では転換型ヒステリーである.また,身体疾患と心因性運動障害や解離型ヒステリーとの合併もまれではなく,理学療法士は対応に苦慮することも多い.
ヒステリーという言葉は,転換状態もしくは解離状態を主症状とする精神医学的障害に対して用いられてきた.主に健忘や人格的意識の変容などの精神症状を示すものを解離型ヒステリーとし,随意運動系や感覚系の症状を示すものを転換型ヒステリーとする分類が一般には行われている.
しかし,米国精神医学会のDSM-Ⅲ(diagnostic and statistical manual of mental disorders,third edition,1980)1)ではヒステリーという診断名は削除されている.これはヒステリーが語源として子宮(hysteria)が体内を迷走して生ずる女性の身体的苦痛であるという考えから発しているため女性特有の病態であるという偏見を生ずること,一般の日常会話にも登場するほど広まっているが学問的な概念からは異なった内容を意味していること,多種多様な病態を包含していることなどが理由とされている2).
そして,解離型ヒステリーは解離性障害とされ,転換型ヒステリーは「身体表現性障害」のなかに「転換性障害」「身体化障害」「身体表現性疼痛障害」などに分割され,DSM-Ⅳ3)へと引き継がれている.また,WHOの国際疾病分類第10回修正(ICD-10)では転換症状は「F44解離性(転換性)障害」の下に解離症状とともにまとめられている4).
冒頭で述べた転換型ヒステリー,解離型ヒステリーという二分法については,本来「解離」がヒステリー症状全般の機制として指摘されたことを考えると妥当でないという考えも強い5,6).しかし,ここでは「心因性運動障害」という言葉を,DSM-Ⅳにおける身体表現性障害のなかの転換性障害,ICD-10における解離性(転換性)運動障害ととらえ,いわゆる転換型ヒステリーの身体症状と診断,および理学療法施行上の問題を有することのある解離型ヒステリーの症状の一部について述べ,理学療法を進めるうえでの留意点などを解説する.
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