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1.はじめに
我が国に理学療法士が誕生して30数年が経過したが,その間の理学療法士を取り巻く環境の変化は著しい.文化は,過去を振り返るとともに将来を模索する試みが幾度となく行われる過程で,小さな周期が繰り返されてそれが大きな周期のなかに取り込まれて全体として発展していく性質を有しており,理学療法も例外ではない.その意味から,これまでも折に触れ,理学療法士誕生から将来までを志向する企画がなされて礎を確かなものとし,裾野の拡がりと範囲を拡大してきた.
2000年を迎えるにあたって,改めて「理学療法士のアイデンティティー」を問うことは,近年の急速な環境の変化に適応しながら,健全な理学療法を目指すうえで重要なプロセスである.本特集では個人のそれぞれの立場から理学療法士のアイデンティティーが述べられ,そのほかにこれまでの変遷と理学療法体系の再構築が模索・提言される構成になっている.
本小論は個人の立場を強調した内容ではなく全体を眺める使命をもつが,その内容が執筆者の年齢,理学療法士としての経験年数,理学療法を展開しているフィールドなどに左右されることは避けられない.筆者は理学療法士のなかでは第2あるいは第3世代に属しており,理学療法の成立過程や初期の実際については諸先輩からのご指導や書籍を通じて得た知識でしか過ぎない.一方,養成施設が増加する前に卒後教育を終えているため,現在とは明らかに異なる環境に属していることも確かである.
本稿では,理学療法の将来展望を模索するなかで理学療法士のアイデンティティーについて考えることを骨子とする.具体的には,理学療法士と個人的および社会的アイデンティティーを眺めて,理学療法を取り巻く環境の変化とアイデンティティーを整理した上で,理学療法学の確立を通してアイデンティティーの発達について考えてみたい.
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