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1はじめに
インフォームド・コンセントに基づく医療の確立を求める市民の声は,今や国会をも巻き込んだ患者の権利の法制化をめぐる議論として新たな段階へと発展しつつあり,先の第123国会における医療法改正案の審議過程において山下厚生大臣は次のように答弁している.「インフォームド・コンセントにつきましては,諸外国の例から致しましても,やはり日本においても法的に義務づける時期というものは,私はだんだん熟して近づいてきているという感じは致します.近いうちにそういう措置をとるべき時期が来るであろうということは,私も思っておるわけでございます.」(1992年5月13日衆議院厚生委員会)
衆議院厚生委員会は,激しい議論の結果,医療法改正案を修正し,その付則として次の項目を付加した.「第二条政府は,医師,歯科医師,薬剤師,看護婦その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係をより促進するため,医療の担い手が,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう配慮することに関し検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする.」
さらに参議院厚生委員会はインフォームド・コンセントに関する措置につき次のとおり付帯決議を為した.「9.医療の信頼性の向上を図り,患者の立場を尊重した医療を実現するため,医療における患者の説明を受ける権利,知る権利及び自己決定権の在り方を含め検討すること.なかんずく,インフォームド・コンセントの在り方については,付則第二条の趣旨を踏まえ,その手法,手続き等について問題の所在を明らかにしつつ,多面的な検討を加えること.」(1992年6月18日参議院厚生委員会)
日本においては,医療法はもとよりすべての医療関連法規において「患者の権利」を正面から認める規定を有しておらず,そうした中で,インフォームド・コンセントの法制化が実現すればきわめて大きな意義を有するであろう.
しかし,事はそれほど単純に進展するとは思われない.インフォームド・コンセントをめぐっては,アメリカをはじめ国際的に確立してきた内容を忠実に受け止める考え方と,言わば日本的なインフォームド・コンセントの理解を主張する考え方とが対立しており,第123国会でも医師会推薦の公述人を中心に強い立法反対論が展開されているところである.
医療界における立法反対の根拠としては,①インフォームド・コンセントは「医の倫理」に基づくものであり法律で強制すべきものではない,②インフォームド・コンセントの立法化は医事紛争の増大をもたらす,③インフォームド・コンセントは医療において当然のことであり,現在でも充分やっており立法化の必要性は無い,などが述べられている.
ここでは,そうした議論をふまえつつ,インフォームド・コンセントを中心とする患者の権利の歴史や日本の状況などについてふれてみたい.
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