書評
―浅野大喜―「リハビリテーションのための発達科学入門―身体をもった心の発達」
森岡 周
1
1畿央大学・理学療法学
pp.619
発行日 2012年7月15日
Published Date 2012/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551102341
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親の誰もがわが子の発達を信じている.生まれてきた子どもが成長していくということは,自然が与えてくれた力であるから.しかしながら,何らかのきっかけで発達がうまく進まない子どもも存在する.この子どもたちには目に見える形で運動障害や知的障害が現れる.療法士は目に見える運動や知能を何とか向上させようと,それに着眼した評価・介入を行う.その手段は,いわゆる正常と呼ばれる運動等と比較して,そこから逸脱した要素を列挙し分析するものである.けれども,生物学的なヒトを意識するあまり,この一連のプロセスには,それに関わる療法士自身の影響を含んでいない.
本書は序章と終章を含め5章で構成されているが,その見出しは「他者との出会い」「自己身体の発見」「他者身体の認識」「他者行動の模倣・再生」「発達科学から発達リハビリテーションへ」である.著者の主張は一貫して,人間の発達は他者との出会いによって生まれ導かれるというものであり,それが膨大な発達科学の原著論文をレビューしながら説明されている.なかでも,身体性や模倣に関する知見に詳しい.子どもが親を模倣し学習するという事実だけでなく,大人が子どもの行動を模倣するといった逆模倣や相互模倣の重要性が説かれ,この関係性は行為の学習だけでなく,他者の意図の類推といった心の理論の獲得や,情動を共有することによる認知やコミュニケーションを促進させる作用を持つことが示されている.親が子に対して興味を示すといった当たり前の行動こそが発達の源である根拠が示されているのである.
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