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はじめに
世の中では,リハビリテーション医療への期待が高まっている反面,リハビリテーション医療は診療報酬の算定日数制限や他職種の参入などを許している.このような状況の中で,将来に対する閉塞感や不安を抱いている理学療法士が少なくないということは,塩中ら1)が行った理学療法士に対する意識調査からもうかがえる.また,日本理学療法士協会(以下,協会)が2002年に行ったアンケート調査でも,開業に興味があるという回答は全体の40%にのぼっている1).
理学療法士の起業を考える際に,保険診療の枠を越えた自由診療での起業も選択肢の1つとなる.しかし,多くの先進国において理学療法士は医療保険上の開業権を獲得しているのに対して,日本では認められていない.そのため,日本では“理学療法士資格をもった一国民”として起業することになり,理学療法を行うと標榜することはできない.実際,臨床で用いるコンセプトはオステオパシーやボディーワークにまで至っており,理学療法との違いを明確にすることは難しい.しかし,特に運動器疾患の分野においては,クライアントが早期に社会復帰できるよう理学療法士がinitiativeをとって活動することが,住民の健康に寄与する社会貢献の1つになると考える.
自由診療での起業については,いわゆる通常医療ではなく,conditioningとして補完代替医療(complementary and alternative medicine:以下,CAM)の手技とボディーワークに基づく方法(manipulative and body-based methods)の一部を提供することになると考えている.鶴岡ら2)は,CAMとは「それぞれの社会や文化で政治的優位なヘルス・ケアシステム以外のhealing resourcesの総称で幅広い領域を指す」という,コクラン共同計画における定義を紹介している.CAMの中には悪質な事業者も存在するため,個人がしっかりとした理念をもつことが重要と考える.
本稿では,自由診療での起業という生き方の一例として,筆者のこれまでの歩み,現状,今後の課題について述べる.CAMといえど,筆者のベースにあるものは理学療法士としての職業倫理と知識と技術であり,また理学療法士としての誇りである.よって「己が人生,されど理学療法は己がためにあらず社会のためにこそあれ」,このことが持論であることを提示した上で,本稿を展開していきたいと思う.
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