連載 当事者研究・22
「起業の研究」虚しさガールズの起業物語 第一報
山本 賀代
1
1むじゅん社
pp.80-84
発行日 2005年11月1日
Published Date 2005/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100164
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1.はじめに
浦河がある北海道日高地区は、ちまたの景気上向きのニュースとは全く縁がなく順調に過疎化が進み、働く場もなくなってきている。特に官庁関係の整理統合は凄まじい勢いで進み、あちこちに空いた官舎が目に付く。この街で、今、新たに浦河で暮らす“虚しさ”を共通体験として抱える4人の女性メンバーが「起業」に立ち上がった。
ある占い師によれば、山本賀代は今年最悪の年で、物事を始めるには最も適さない年らしい。そんななか会社を立ち上げることになって不安になり、向谷地ソーシャルワーカーに「今年、あたし大殺界なんだよね」と相談したら「そんなこと言ったら山本さんの人生ずっと大殺界でしょ」と言われ、それもそうだと納得して「やるべきだ!」と思った。
4人に共通する生きづらさは、自己病名でいうと“人間アレルギー症候群”である。これは、自分も含めた人間に対して起きる拒絶反応で、抗原-アレルゲンと化した“人間”に接すると心身にさまざまな症状が出現し、生きていくことが困難になる一連の生きづらさの総称である。
べてるの家の起業に特徴的なのは、仕事やビジネスの成功とは全く縁遠い、むしろさまざまな失敗や挫折を経験したメンバーによって営まれてきたということであり、誰が考えてもうまくいくとは思えない状況での起業というのが共通している。その意味でも、このたびの起業の試みはまさしくべてるの王道を行っている。しかし、過去の起業と違うのは、この起業は1つの研究であり、実験である、というところである。
ちょうど起業を志してから半年が経った。現在までの歩みを当事者研究を通じて振り返ってみる。
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