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はじめに
メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)とは,①内臓脂肪蓄積,②脂質代謝異常〔高トリグリセリド(TG)血症,低HDLコレステロール血症〕,③高血圧,④耐糖能異常(インスリン抵抗性)などが個人に集積することにより,動脈硬化を基盤とした心血管イベントが発症しやすい状態を指す疾患概念である.社会保険健康事業財団による「平成16年度 政府管掌健康保険生活習慣病予防検診におけるメタボリックシンドロームリスク保有者について1)」では,BMI 25以上,耐糖能異常,高血圧,高脂血症をリスク項目とした場合,受診者347万人(男性228万人,女性119万人)中,男性では全体の30.2%がBMI 25以上であり,そのうち41.1%はリスクを2項目以上保有し,女性では全体の18.5%がBMI 25以上であり,そのうち21.6%はリスクを2項目以上保有していることが明らかになった.さらにリスク保有状況をみると,BMI 25以上でリスクを2項目以上保有する男性の場合,44.2%が高脂血症と高血圧を,23.7%が高血圧,高脂血症,耐糖能異常を保有し,女性では38.1%が高血圧と耐糖能異常を,37.6%が高脂血症と高血圧を保有しているという結果であった.同様に「平成16年 国民健康・栄養調査の概要2)」では,40~74歳におけるメタボリックシンドロームの有病者は約940万人,予備軍は約1,020万人,あわせて1,960万人がメタボリックシンドロームの有病者と推定されている.またこの調査から男性の2人に1人が,女性では5人に1人がメタボリックシンドロームを強く疑われ,とりわけ40歳以上の男性では40%以上がメタボリックシンドロームの有病者であると考えられている.ちなみに日本人の糖尿病患者で,メタボリックシンドロームの基準に合致する人数は,全体の30%程度と考えられている.
現在メタボリックシンドロームは,わが国の保健・医療行政における重要課題として,積極的な取り組みが行われている.とりわけ「健康日本21」で掲げられている運動への取り組みに対しては,運動療法を専門とする理学療法士として,積極的に参加する必要性がある.そこで本稿では,これまで行われた耐糖能異常や糖尿病に対する生活習慣改善の疫学研究の成績から,メタボリックシンドロームの予防・改善と身体運動の効果を類推し,さらに運動効果発現の生化学的メカニズムの概略について述べる.
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