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最近の社会問題の多くに共通していることは,起こってしまった物事の重大さに加えて,“偽装”“説明責任の不履行”“隠蔽”など,むしろ事後の対応や体質が議論の中心になっているように感じる.細心の注意をはらっても過失をゼロにすることは難しく,偶発的な事故となればその発生を予見することは困難な場合もある.重要なことは,事態への真摯な取り組みによる原因究明と再発防止の具体的内容を明確にすることであろう.その際,調査・解決の過程において外部者の意見を傾聴することは大切であるが,根本には自己点検・省察の姿勢が不可欠である.
専門職教育において,もっとも習得しなくてならない能力はまさに上述した点にある.卒前教育においては,最低限の知識や技術を保証することが必要であるが,それ以上に,自らの力量を知り,高い倫理観と生涯学習への意欲を高めるための取り組みが求められる.臨床実習の目的は,対象者(症例)を通した専門職としての振る舞いと思考過程を習得するとともに,臨床体験としての経験知を養うことにあるが,その本質とmetaphysicsは適正な自己省察と問題解決能力の涵養にある.現在の理学療法臨床実習は,1960年代に構築されたものである.時代とともに制度を変更することは大切であるが,制度や手続きに傾注するあまり,その本質を失うようなことがあってはならない.これまでに先達が脈々と積み上げてきた姿勢と誇りを継承していく責務がある.なお,臨床実習のみに過重な負担と過大な期待をすることは,学生,臨床実習指導者のストレスを増大させることになる.また,student abuseやハラスメントからの回避やメンタルヘルスに対する支援が一層求められる.
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