南極物語【最終回】
南極からの出発
大野 義一朗
1
Giichiro OHNO
1
1東葛病院外科
pp.215
発行日 2002年2月20日
Published Date 2002/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407904781
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迎えのヘリは轟音をたてながらホバリングを始め,雪面レベルで静止した.ハッチが開き,真新しい防寒具を身につけきれいに髭を剃った人間が現れ,「ご苦労さまでした.おみやげです.」と生卵と新しいビールを手にさわやかに微笑んだ.39人,最後は8人がすべてであった越冬生活で1年ぶりに遭遇した別世界からの使者だった.続いて観測船の乗組員が次々に出てきては大声をあげてせわしく写真を撮りながら,やまと隊の傷だらけで薄汚れた荷物をヘリの中へと運んでいった.あとにはたくさんの足跡が残っていた.傍らにたたずんでいたやまと隊の8人はもう一度雪原を見回し,ヘリに乗り込んだ.「しらせ」へ直行するヘリの小さな窓に顔をこすりつけて眼下に広がるなじみの風景に別れを告げた.
1999年2月22日,「しらせ」が昭和基地沖を出航した.青い航跡は瞬く間に閉じていく.白い大陸,殺伐とした岩だらけの基地,そこでの不思議な生活,すべては氷で封印された夢に戻っていった.
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