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起居移動動作は私たちの最も基本的なADL動作である.全身を空間的に移動して支持面を変更する動作は安定したままで開始することは不可能で,無自覚なうちに安定した状態を崩すことから始まる.動作に慣れた人にとっては,不安定であることは問題にならず,よくコントロールでき,自由度が高いことにより効率的な動きが可能になる.しかし障害を被ったときには非常に難しい動作となり,無自覚なうちに転倒しないことが優先され,筋緊張を高め身体を硬くして自由度を下げたり,身体の内部,あるいは外部との接点に固定点をつくり,画一的なバランスの取り方(カウンターウエイトの活性化)を優位にして自由度を下げるなど柔軟性を低くする傾向が強くなる.また,感情的にやる気がなく,活動性が低いときには筋緊張も低くなり,重力に押し潰された動きにくい姿勢をとりやすい.このときにも固定点をつくり画一的なバランスをとる傾向が強くなり,動作は遅く,融通性は低くなる.
起居移動動作は,平衡感覚や固有受容感覚による頸部・体幹の姿勢維持筋による全身的な筋緊張のコントロール(平衡による基礎的定位のレベル),ある程度パターン化された四肢の速い合目的的な運動の自己組織化(筋-関節の固有感覚による基礎的定位のレベル),さらに移動空間での遠感覚受容器からの情報に基づいた空間的な全身のコントロール(空間移動のレベル)など,階層的に高度なレベルまで含んだ感覚フィードバックによる自律的な調整ができて初めて可能な動作である1).そのため背景となる感情や環境が変化すると,できたりできなかったりすることがある.起居移動動作をこのような調整系の中に位置づけてその運動療法について考えてみたい.
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