オピニオン
プロの道を目指して
芝 紀代子
1
1東京医科歯科大学医学部保健衛生学科
pp.522
発行日 1998年6月1日
Published Date 1998/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543903425
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きっかけが人生を組み立てている,と私は思う.私は35年前に薬科大学を卒業したが,そのとき,薬科大学の教授をしていた叔父が,「将来薬剤師も臨床検査が必要になる時代が来るから勉強しておいたほうがよい」と,東京大学医学部附属病院検査部生化学に見学生として奉公に出された.もちろん,臨床検査についてまったく習っていないので,ちんぷんかんぷんである.意地悪っぽい技師が,「あの人何しにきているのか」と,じろじろ見られてもどうしてよいかわからない.窮状を救ってくれたのが,足立把(ゆずか)さんであった.実習生の彼女はお昼休みに,『臨床検査法提要』を広げて,1つ1つの項目について,測定法,正常値,臨床的意義などを丁寧に教えてくれたのである.私は意地悪っぽい技師がどの程度の実力なのか判断することができない悔しさで,猛勉強をした.女の意地である.
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部生化学の助手になったのは今から30年前である.当時の検査部はマイナーなところなので,本腰を入れて臨床検査をやるという医師がいなかったのが,私が採用になった理由である.教えた経験がないので,ともかく恥をかきたくないという一心で猛勉強をした.女の見栄である.
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